東京・有楽町のビルの一室で8日、葛飾区の介護福祉士の男性(43)が老後に備えた資産形成についてファイナンシャルプランナー(FP)と熱心に話し込んでいた。男性は昨年9月に資産運用のアドバイスを行う「ファイナンシャルスタンダード」(東京都千代田区)のセミナーに参加したのをきっかけに、同社のFPに相談を始めた。
「年金だけで生活できるほど、もらえるわけではない。60歳になれば体力も落ちるし、若い人と一緒に働くのも大変になる」
男性は将来の不安を口にする。年金以外で老後資金が2千万円必要とした金融庁金融審議会の報告書が話題になった際は「何を今さら」と思った。むしろ「医療や介護など若い時より老後の方がお金がかかる。倍(の4千万円)は必要ではないか」と感じている。
同社社長の福田猛は「これまで退職金などに関する50~60代の相談が多かったが、『2千万円問題』以降、30~40代が増えている」と語る。6月のセミナーの申込数は例年の倍で、個別相談の予約も数週間先まで埋まっている。
「国のお金も足りず働き手も減っていく。生活保護受給者は、今のように普通の介護サービスなど受けられなくなるのではないか」
男性が日本の未来に向けるまなざしは厳しい。
参院選で争点になっているのが年金問題だ。金融審の報告書をきっかけに与野党が舌戦を展開している。
「われわれが大騒ぎしなかったら『消えた年金問題』は蓋をされていた」
「ミスター年金」こと立憲民主党代表代行の長妻昭は2日、東京・三軒茶屋で演説し、報告書の受け取りを拒んだ金融担当相の麻生太郎と首相の安倍晋三(自民党総裁)を批判した。
長妻は12年前の平成19年、厚生労働省でずさんな年金記録が判明した「消えた年金問題」で政府を厳しく追及。参院選で自民党は大敗し、第1次安倍政権は退陣に追い込まれた。再現を狙うかのように、公示前から「年金守りたい」と称し、遊説している。立憲民主は公約に年金の最低保障機能の強化を盛り込み「『2千万円ためなければならない社会』でなく『大きな蓄えがなくても安心できる社会』を目指す」とうたった。
だが、旧民主党が掲げたすべての人に月7万円以上を給付する「最低保障年金」は消費税率10%への引き上げとは別に7%の増税が必要とされ、結果的に頓挫した。立憲民主は今回、詳細な制度を示しておらず、10月の10%への引き上げにも反対している。
「野党からは財源が裏打ちされない、具体的でない政策しか出てこない」
安倍は10日、山形県酒田市の街頭演説で、野党の対応は無責任だと批判した。ただ、金融庁の報告書が問題となることは早くから危惧していたようだ。
「(2千万円は)余計な数字だ。持ち家があるかどうかでも違う」。安倍は6月10日の党役員会でこう疑問を呈した。
与党は雇用の増加に伴う年金保険料の収入増などをあげ、年金制度の安定を強調する。ただ、今後は少子高齢化の進展で、年金の給付水準(現役世代の平均収入に対する割合)の低下は避けられない。共産党は人口減などの影響を踏まえ支給額を自動調整する「マクロ経済スライド」の廃止を求めるが、安倍は「そうなれば今の40代が受給者になったとき年金積立金は枯渇する」と訴える。
政府は10月から低年金者対策として加入期間に応じて最大月5千円の給付金を支給する方針だ。国民民主党は加入期間にかかわらず最低でも月5千円を支給し、財源を金融所得課税の強化で賄うと主張する。
日本総研主席研究員の西沢和彦は「与党が年金制度は今のままでいいと強調しすぎる一方、野党は高齢者の貧困防止など方向性は正しくても具体的な制度に落としこめていない」と指摘している。=敬称略
(田村龍彦)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース